パロです。
保育士さんの緋真先生と、元園児の白哉君(成長して社会人になりました)が結婚した後のお話です。




 明かりが落とされ、部屋に灯るのはベッドサイドに置かれた淡い光を放つ照明のみとなる。
 夏に二人で眠っても快適に過ごせるようにと選んだダブルベッドより更に大きなキングサイズのベッドのスプリングが戻って来た白哉の体重で僅かに軋んだ。
「先生…」
 未だ名で呼ぶのは慣れていないのか、彼の長年の『先生』という呼び方は変わらない。勿論それは当の『先生』も同じなのだが。
 だが呼び方は変わらなくとも月日の流れは少年を一人の男性へと変えていた。簡単に抱き上げる事の出来た身体は、背に腕を回す事も容易く無い程に逞しい身体に。
「朽木君…先生、このトシで恥ずかしいんだけど…あの、こういうこと、よく知らなくて…」
 所在無さ気にベッドの上に座っていたのを抱き寄せられ、やんわりと身体を横たえられると、その沈黙を誤魔化すようにやや早口で緋真は言葉を紡ぐ。緊張しているのだろう。
「大丈夫です。私もよく知りませんから」
 小さく笑って答えた彼の瞳は幼い頃の無邪気なそれとは違っており、あの頃の彼はもう立派な大人なのだと否応無しに彼女に感じさせた。
「あ……」
 何かを言い掛けた緋真の言葉は口付けと共に飲み込まれ、彼女同様こういう事は良く知らない筈の白哉の口付けに翻弄され、細い腕が彼の首へと絡み付くまで時間は掛からなかった。






「良く知らないなんて嘘じゃない…!」
「そんな事、言いましたか?」
 シーツにくるまって真っ赤になる緋真にしらばっくれた調子で白哉が返答すれば、顔面に向かってクッションが飛んで来た。それを片手で受け止めている内に拗ねて壁と睨めっこを始めてしまった緋真の髪にそっと彼が手を伸ばす。
「先生、可愛かったですよ」
 甘い声で囁いてみれば細い肩がピクリと揺れた。
「…それが悔しいの。いつか先生のテクニックで朽木君を腰抜けにするんだから…!」
 拗ねた口調で紡がれた言葉はただ白哉を喜ばせるだけだという事に本人は気付いていないようで、
「覚悟しておきます」
 それが楽しみだという事を表に出さずに白哉は傍らの細い身体を抱き寄せた。

*******

〜後日談〜


 手際良く先程迄緋真が顔を赤くして指の隙間から見ていたサイトの履歴を消去し終えた白哉は嘆息した。
「……何をしているのか分からないものが多かったのだけれど」
 ベッドの縁に腰掛け、クッションを抱えた膝と胸の間に収めてつられたように緋真も溜息を零す。
「先生は世俗の汚れに染まらなくて良いんです」
 白哉は真剣な口調で言いながらネクタイを緩めた。相変わらず先生扱いは変わらない…名で呼ぶ事も増えては来たが。しかしその度に動揺のあまり緋真が呼吸困難に陥り掛けるので少しずつしか増やせられないというのが現状らしい。
「でも……」
 テクニックが何とかかんとか。
 後半はボソボソという声で白哉の耳には届かなかったが、大体言いたい事は理解出来た。
「だから先生はそんな事を気にする必要はありません」
「でもやっぱり朽木く……じゃなくて、白哉……クンを満足させたいと思うの」
 既にその台詞だけで白哉がお腹いっぱいだという事に緋真は気付いていない。そろそろ名前で呼んでほしいとねだった結果朽木君が白哉君に進化しただけでも彼は満足なのだ。
「そのままの先生が良いんです」
 傍らに腰掛けて微かに笑みを浮かべた彼の言葉に白い肌が桃色に染まる。片腕でそっと抱き寄せもう一方の手でくしゃりと柔らかい髪を撫でると優しい色の瞳がはにかんだように微笑んだ。
「それに…」
「それに、何?」
「先生に覚えて欲しい技術は私が手取り足取り教えますから」
 恥ずかしさの余りクッションを飛ばしそうになった緋真をそれもろとも腕の中に抱き締めて、耳元でそっと囁く。
 だからあんな変なサイトで先に学ばないで下さい。

緋真さんの攻撃スキル=クッション投げ。
最初の部分の台詞はチョキさんが考えて下さったものです!