憎しみの深層

「…間違っていたのは俺じゃない。世界の方だ」
 仮面を脱ぎ捨てた男が小さく呟いた。その言葉に瞬時女は瞳を揺らすが、直ぐに冷たい眼差しを彼へと投げ掛ける。
「自己肯定して、逃げるつもりか?…お前の覚悟はその程度のものだったのか。私を失望させるなと、言った筈だ」
 痛い所を突かれたのだろう。だがその弱さを隠すかのように、ルルーシュはノートパソコンから顔を上げ椅子を反転させるとベッドに横たわる女を睨み付ける。勿論、彼女に対してそんな事をしても効果が無い事は彼自身が一番理解しているのだが。そして彼の予想通り、C.C.は全くその視線を気にした様子も無く長い髪をクルクルと細い指に絡み付け、窓から見える月を眺めていた。
「…逃げるつもりはない」
「逃げる気の無い男が何故弱音を吐く?」
「たまには…そうしたい時もあるものだ」
「お前は子供か?…私はお前の弱音を聞く為にお前の傍に居るのではない」
 そこで初めて女が視線を男へと移した。射抜くような金色の眼差しにルルーシュは怯み、暫し見つめあった後片目に紅を帯びた紫色の瞳が逸らされる。
「…そうだな」
 普段は自分が言う一言一言に要らない反論をする男が今回は大人しく同意を示した。
 珍しい事もあるものだ。心中で呟き、女は深い緑のシーツに顔を埋める。鼻腔を満たす洗剤の清潔な香りが気持ち良い。
「明かり、消すからな」
「私が明かりを要する作業をしているように見えるか?…好きにしろ。ついでに言うなら、お前がさっさと眠ってくれないと私もゆっくり出来ない」
「…判った、と素直に頷けないのか、お前は」
 調子を崩される。そうルルーシュは思いながら、女が身体を横たえるベッドの半分に身を滑り込ませる。
 暫し落ちる沈黙。自分に背を向けた女の髪が月の光を纏い、今夜は翡翠のような煌めきを帯びていた。触れたい、と。自然な欲求に抗わず長い髪へと手を伸ばす。予想以上の柔らかさが神経を伝い、微かに紫の瞳が揺れた。

初めて書いたルルC。
本当はもうちょっと続く予定でした。