"Eight letters, three words, one meaning."
「へ? えい……何だって?」








0831









 夏の終わりらしく、僅かに湿った…だが、大分秋らしい彩りを帯びた風が部屋を吹き抜ける午後の事。
 傍らで雑誌に目を通していたバーナビーの口から発せられた妙に発音の良い一文を聞き取る事は勿論虎徹に出来る訳も無く、こんな簡単な文章さえ聞き取れないのかと言わんばかりに翡翠は冷たい色を発し始める。
「おじさんにはちょーっと…ほら、難しいというか……いいや、バニー。共通の言葉があるのに、敢えて俺の理解出来ない言葉を使うお前の気遣いの無さが、お前の発言を理解出来なかった原因だと思う」
「真面目な顔をして開き直らないで下さい」
 しどろもどろに言葉を選んでいた虎徹が至極真面目に言い放ったのを、ぴしゃりとバーナビーは一言で切り捨てる。
 それが不満であったのか暫くごにょごにょと言い訳を並び連ねる自らより年上の男の横顔を視界の端に留め、形の整った唇からあからさまな溜息が一つ。
「呆れんなよ、バニー。…それで? お前は格好良い発音で何を言ってくれちゃったワケ?」
「貴方に説明するのに費やす数分が僕の人生の無駄になるのは残念ですが、…仕方ありません。僕に感謝してしっかり聞いて下さい」
「お前本当に性格悪いな!」
 噛み付きそうな勢いで皮肉――本人としては事実を述べているつもりなのだろうが――を言う虎徹の言葉を真顔で受け流し、膝に広げていた雑誌の一頁を隣に座る彼にも見えるようにとバーナビーが傾ける。其処には仲睦まじい様子で微笑み合う男女を背景に、先程彼が読み上げた英文が華やかなフォントで綴られていた。
「8つの文字、3つの単語、1つの意味。…今日の日付、8月31日という3つの数字からの…言うならば言葉遊びの様なものでしょう」
「文字が8つで…単語が3つ…んで、意味は1つと。何だこりゃ、なぞなぞか?」
 先程言われた言葉自体は理解出来たものの、今度はそれが意味するものが解らない。顎に指先を添えただ首を捻るばかりの男の横顔を見て青年は柔らかく微笑んだ。
「うお!?」
 不意に二人の間の距離が詰められる。暖かい光が反射して淡く透ける金の睫毛をそっと伏せて、形の良い唇が虎徹の耳元へと寄せられる。ああ、黙っていれば本当にただ美しいばかりの奴だ――そう頭の中で思うが、驚きの声を上げただけでそんな嫌味は口の中で消えた。
"I love you."
 笑みを含んだ声で囁かれ、漸く先程の“なぞなぞ”が意味していたものを虎徹は知る。胸に込み上げて来る愛しさのままに愛を告げようとした唇は塞がれてしまったので、言葉の代わりに年下の恋人の身体をそっと抱き寄せた。

8月31日にはちょっぴり遅刻。ツイッターで流れていたので使っちゃいました。(0831のエピソード)
バニーちゃんの美人さん具合を文字にするのが難しいです。おじさんの大人の色気をもっと表現出来るようになりたいです。