Code Geassより。たぶんルルCです。





 揺蕩っていた意識がゆっくりと浮上して少女は瞼を持ち上げる。金色の瞳が辺りに飾られた数々の記憶を映し出し、そうして再び閉ざされた。もう少しだけ考えなくてはならない事を放棄していたかった。
『いつまで此処に留まっているつもりなの?』
 少女の柳眉が寄せられる。そうして再び開かれた金色の瞳が静寂を遮った声の持ち主を睨み付ける。
「…邪魔をするな」
『本来此処は私が守る場所。記憶の管理人の元に記憶の持ち主が来るのは本来なら有り得ないこと。…貴女だけは例外みたいだけど』
 黒の拘束衣を纏った女が感情を見せぬ表情でゆっくりと言葉を紡ぐ。まるで相手の反応など全く気にしていないかのように。不満気に女を睨む白いセパレーツの上下を身に纏う彼女にも、普段は似たような傾向があるのだが。そうして女はもう一度問いかける。
『いつまで此処で思考を止めているつもりなの?』
「…っ、私は考える為に此処に来たのであって」
『嘘』
 あまりにもきっぱりとしたその物言いに金の瞳が見開かれる。何故そのような事を言えるのか問いたげなその瞳を暫し無言で見つめてから黒衣の女は踵を返した。
「おいっ」
『答えは知っている筈。…貴女を其処まで追い詰めたのは誰? 貴女を悩ませているのは何? 貴女は何を望むの?』
 きっと初めから答えなど求めてはいなかったのだろう。返答を待つ事無く女はその場を立ち去り、椅子に腰掛けたままの彼女だけがその場に取り残された。
「……」
 本当は全て分かっているのだ。憂鬱そうに溜息をついて、自らの目の前に飾られた額縁で再生される映像を見つめる。胸元に今も消えない傷を残したあの日の記憶から時が流れて、今の契約者、ルルーシュ・ランペルージと過ごしてきた日々をそれは映していた。普段は邪魔そうに自分を扱う彼がただ一度だけ名を呼んでくれた、その時の声が耳に未だ焼きついている。そして、死に身を委ねようとした自分を必死に止めてようとしたあの時の声が。
(魔女である私が持つには甘過ぎる感情だと、分かってはいるのだけれどな)
 死に損なって、どうしたら良いか分からなくなっただなんて絶対あいつには口が裂けても言えない。名前を呼んでくれたお前の存在が掛け替えのないものになっていただなんて、絶対言えない。
「私が望むのは――…」



 それはきっと誰にも言えないけれど。





わたしのなまえ